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“拉致監禁”の連鎖 パートⅦ、Ⅷを終えて(中)
拉致根絶には息の長い活動必要
「全国拉致監禁・強制改宗被害者の会」が結成された2010年に、日比谷野外音楽堂(東京都千代田区)で行われた拉致監禁を糾弾する集会
本連載でたびたび指摘してきたことだが、改めて言及したいことがある。
それは、世界の人権活動家や海外の政府、国際機関の関係者が、拉致監禁という犯罪の事実上の放置に対して強い憂慮を示しているにもかかわらず、日本では政府、司法、マスメディアなどからの批判がほとんど上がってこないことだ。日本政府からは、この犯罪に対処しようとする意思さえ感じられない。
国境なき人権が調査を始めたきっかけは、人権活動家のアーロン・ローズ氏が深刻な被害状況を知り、自身が「黒船」になろうと思ったことにある。
しかし、問題解決には海外からの「黒船」も重要な要素だが、被害者やその支援者らが被害情報を公にして懸命に訴えなければ道を切り開くことは難しい。
かつて日本政府は、北朝鮮の日本人拉致問題についても、拉致が1970年代に発生して以降、長い間問題を解決しようと積極的に動かなかった。警察当局が事件を隠蔽する動きをしたケースもあったほどだ。
それでも被害者家族らは、署名活動や外務省前などで座りこみを続けるなどして被害者の救出を訴え続けた。
こうした声を上げると、いわれなき批判を浴びたり、活動を妨害されることもある。
実際、被害者家族らも一部の国会議員らから邪魔者扱いされ、法務省の人権擁護局からはまともに取り合ってもらえなかったこともあったという。
拉致被害者家族の蓮池透さんは著書『奪還-引き裂かれた二十四年』(新潮社刊)の中で、こうした政府の姿勢に「深い失望感を覚えました」と綴り、「日本側が拉致問題の真相を究明し、解決を図ろうという強い意思を示さなかったことに、私は大きな疑問を感じざるを得ませんでした」と当時を回顧している。
それでも問題を解決しなければならないという強い思いと地道な活動の積み重ねが少しずつ世論を変え、日本政府を動かした。事件発生から20年以上が経ち、ようやく北朝鮮の金正日総書記も拉致の事実を認めて事態が大きく動いたのである。
拉致被害者の家族らが活動中に米政府高官と会った際、好意的で協力的な態度を示された。その様子を蓮池さんは「日米の姿勢の違いが際立って見え、改めて日本政府には当事者意識が欠如していると痛感させられました」(同書)と述べている。
新々宗教信者の棄教を目的とした拉致監禁も同様の構図にある。海外の人権団体などは高い人権意識で積極的に問題追及に踏み込んできたが、足元の日本政府は国内の事件にもかかわらず「犯罪が行われている当事者国としての意識が欠如している」と言わざるを得ないのが現状。
政府が拉致監禁の実態を調査せず、解決に向けて動かずにいる態度を「黒船による外圧」だけに頼って変わるものではない。北朝鮮による拉致被害者の家族らによる救出運動と同じように、息の長い足元の地道な活動の継続で理解を広げていくことが必要だ。
(「宗教の自由」取材班)
-つづく-