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“拉致監禁”の連鎖 パートⅧ 番外編 宗教ジャーナリスト 室生忠さんに聞く(下)
“拉致監禁”の連鎖 パートⅧ 番外編
宗教ジャーナリスト 室生忠さんに聞く(下)
PTSD問題を前面に戦いを
国際世論の後押しが必要/国際世論の後押しが必要
200回続いた連載に期待/普遍的問題点引き出す努力を
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――「国境なき人権」リポート第3章では、強制改宗のための拉致監禁行為が、国際法の人権規約に違反していると批判し、政府、市民団体、国際社会に対し八つの勧告を行っている。この影響についてどう見るか。
リポートに書かれている勧告は、我々の気付かなかったポイントを教えてくれている。ただし、これらの勧告を日本の社会なり、政治なり、司法なりに、そのままストレートに反映させていくことの困難性を感じる。理念的にはまさにその通りだが、実際の戦いの現場にいる者たち、あるいは被害者の目から見た場合、それを実現、貫徹していくためにはどうすればいいのかという問題がある。
――どういった対応が考えられるか。
日本における強制改宗、拉致監禁の解決を阻害している3本柱は警察・検察、裁判所、メディアだ。勧告の一つは、警察、検察の横暴を止めるために監視システムをつくり、(各機関が)自己検証しなさいという内容だが、警察、検察は、そもそも親子問題を理由にして完全にガードを固めている。「自己検証しなさい」と言われ、「はい、そうですか」とはいかない。どうやって自己検証させるのかというプロセスの問題のほうがずっと困難性を伴う。
ただ、真摯に汲み取るべき部分があるとすれば、それはメディアのほうが訴えやすいということだ。メディアのPTSD(心的外傷後ストレス障害)に対する見方が変わってきていることが注目される。PTSDを前面に押し出していくことが重要だ。
――PTSDの問題は、たとえ親でもひどいじゃないか、被害者がいるじゃないかということになる。
PTSDの問題を絡ませていくことの強みはそこだ。今ある(解決のための)さまざまな回路の中で、親子関係の問題も突き崩すだけの力を持っているのはPTSD問題だ。PTSD問題は家庭内虐待につながっているからだ。
これは、親子関係の論理ではガードできない。
――国際社会に対する勧告について、国内的にはどんな影響があるか。
大事なことは、問題解決のためには、依然として国際世論の後押しがどうしても必要だということだ。日本国内の運動だけでやろうとすれば、おそらく解決は難しいだろう。日本は村社会文化だという位置付けはおかしいとしても、現在の日本の「反カルト」文化なり、物の考え方に対する国際社会から見た矛盾点を突き付けてもらうということが非常に大事になってくるだろうと思う。
――拉致監禁の事実を認めない反対派は、リポートの作成に全く協力しなかったが。
語るに落ちるというか、語る前に落ちている。フォートレ氏が、こういう取材をしているから、具体的な情報を提供してくれというメールを出したときに、反対派は完全無視を通した。フォートレ氏は人権調査のプロで、つまり、取材に応じると、拉致監禁の加害者を弁護している人たちは、拉致監禁虚構説のウソを簡単に見抜かれてしまう。
国境なき人権の世界的権威とバリューがあまりに重過ぎる。取材に応じて、それはウソだ、拉致監禁は現実にあると認定されたら、自ら墓穴を掘る結果になって一巻の終わり。じゃあ、明確に取材を拒絶した場合どうなるか。世界的権威の調査を拒絶する理由を明確にしなければならず、今度は世界の専門家から拒否の理由の一つ一つを検証される。結局、非難を覚悟で無視するしかなかった。
国際社会とりわけ人権活動家たちの間では、無視したという事実は、決定的な意味を持つ。リポート内容を認めているということだ。世界的に言えば、この時点で勝負はついている。
――さて、国連人権理事会で行われた今回のサイドイベントについて聞きたい。
本当に圧巻というか、数あるサイドイベントの中でもかなり良質で、ボリュームもあったと思う。参加したメンバーを見ると、1年前のサイドイベントと比べ雲泥の差がある。世界の理解がそれだけ深まっていることの一つの大きな証明だと言える。ある人に言わせると、「参加したフォートレ氏なり、アーロン・ローズ氏なり世界の一流人権家がわが事として話した」ということだった。
――今回の連載の中で言及しなかったが、レビューについては。
次のレビューは4年後だから、国境なき人権の他にも有力NGOに理解を求めるなど、それを目指した準備を積み上げていくことは大事だ。それ以外にも、国連スペシャル・ラポチャー(特別調査官)を日本に招請する回路もある。国連プロパーの人権専門家による問題化の回路もある。今回は国連のレビューという大きな舞台でリポートが資料として認められ記録に残された。ここから次の展開が開けてくる。今回のレビューを単に他国から指摘されなかった、残念だ、というだけで終わらせたくない。
――外圧だけでなく、日本の中でもっとやれるものがあるのではないか。
私は必ずしも外圧だけが強調されてきたとは見ない。200回続けられたこの拉致監禁の連載を見ても、外国の動向について報じているパートは、2回しかない。あとは特に法律、司法を中心とした国内の戦いの場のリポートだ。
拉致監禁問題で戦うというのは、国内、国際両方でやらなくてはいけない。そういった意味では、外圧つまり“黒船の力”は絶対に不可欠だ。問題解決のレベルが、フォートレ氏も言っているが、やっと「この問題を可視化しなければならない」というところにあることだ。
外国から見ると、話を聞いて驚いた、びっくりしたと。だから、これはぜひ、国際社会の中で誰からも見えるようにする問題として提起されなければならないと。本当の戦いはこれからだ。頼りとなる黒船を前に前に進めるような追い風は、むしろ日本国内の方から当てていかなくては駄目だということだ。
――連載は200回に届いた。今後のテーマについてアドバイスを。
今まで起きてきたさまざまな事件にまつわるポイント、ポイントの指摘はきちんとなされているなという感じは受ける。視点も事件のストーリー的外形にとどまっていない。それはPTSD問題の追及という形ですでに出ているが、フォートレ氏の人権リポートの手法に見られるような、数多くのテーマを抽出してさらに深めていくことが必要だ。例えば、フォートレ氏のレポートは、後藤徹さんのケースを拉致監禁の典型例としてとらえ、その他の体験例の集積と合わせて、そこに含まれている普遍的な問題点を引き出していく。それは家族の問題であったり、金の問題であったり、実にさまざまで奥深い。
――北朝鮮の日本人拉致問題でも、金正日が拉致を認めてすべてひっくり返った。
それまで横田さんらは二十何年も運動してきた。一朝一夕にひっくり返るもんじゃない。現実には非常に難しい部分もあるわけだが、解決の道のりは遠い、とばかりは言いたくない。信念と希望を持ってやっていただきたい。絶対不可能という中での戦いではないんだと、状況は急速に上向いていると、そのことを強調したい。
――拉致監禁疑惑をめぐる国連でのロビー活動の実態が明らかにできればと思います。どうもありがとうございました。
(聞き手=森田清策、片上晴彦 写真=岩城喜之)