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“拉致監禁”の連鎖(186) PTSD発症(14) 周囲に話せない犠牲者
周囲に話せない犠牲者
原田さんの婚約者(当時)の拉致監禁に使われた「荻窪フラワーホーム」(東京・杉並区)
拉致監禁というショック体験を原因とするPTSDや精神疾患を発症するケースは被害者本人のほか、その配偶者、婚約者などさまざまある。東京都内に住む原田和彦さん(54)は、婚約者が拉致監禁に遭って統一教会を脱会、それがショック体験となって精神的不調に陥った1人だ。
原田さんの婚約者(当時)Oさんが脱会したのは1989(平成元)年のことだった。脱会説得に使われたのは東京・荻窪にあるマンション「荻窪フラワーホーム」。部屋こそ違うが、のちに12年5カ月間にわたる監禁被害を受けた後藤徹さん(48)の強制棄教にも、このマンションの一室が使われた。
教会関係者らと監禁場所を特定し、Oさんの救出を試みた原田さんだったが、結局失敗。「そこから私の地獄の日々は始まった」という。幸せな結婚生活を誓いあった婚約者の突然の脱会と婚約破棄は、原田さんにとって「自分の人生が終わったかのような」ショック体験だったのだ。
まず、原田さんを襲ったのは強い自殺願望だった。「自分で死んだら『罪』になるから、どこを歩いていても『交通事故で巻き込まれないか』という思いが頭から離れなかった」。新築の白い壁を見ただけで「なぜこんなにきれいなんだ」と怒りがわいてきた。
仕事中に一時的な視力の低下や記憶の薄れも経験している。こうした心身の不調は、ショック体験によって引き起こされた「トラウマ反応」と見られる。
転機となったのは、たまたま出会ったヒーリングサークルで、Oさんの強制脱会にまつわる体験をすべて話したことだった。「そこでは、お互いの秘密を守るという約束で、自分が一番言いたくないことを話し、また相手の話しを聞いた。中にはレイプ被害の体験を話す女性もいました」。
そのサークルに7、8回通ううちに心が解放されていった。当時、原田さんの周囲には、婚約者の強制脱会や自身の悩みを相談できる人がいなかったという。
拉致監禁の被害体験を統一教会とは関わりのない立場の人に話すことで、心の整理ができたという被害者は少なくない。連載のパートⅡに登場した医師の小出浩久さん(49)もその1人だ。
偽装脱会して脱出したあと、小出さんは頻繁に悪夢を見たほか、夜中に夢遊病者のように部屋を徘徊する症状が続いた。しかし、同教会とは関係のない団体が主催するプログラムで、被害体験を話すことによって精神が安定したという。
拉致監禁による苦しい体験を身近な人になかなか話せないのは、脱会者も同じだ。脱会したあとでPTSDを発症した宿谷麻子さん(48)は次のように語る。
「脱会者は、『(救出カウンセリングは)拉致監禁であって辛かった』とは言えない。感謝しなければいけないということが前提となっており、それを言うと、親・親族を加害者にしてしまい、結局“裏切り者”になるからだ」
犯罪被害者の心のケアが注目され出したのは最近のことだ。それと同じように、多くの拉致監禁被害者を出している統一教会内でも、脱出後のPTSDについての理解は進んでいるとは言い難い。ショック体験による心の傷を抱えて、いまだにそれを表に出せずに苦しんでいる信者は少なくないのではないか。
その一方で、親族や脱会屋、牧師の思惑通りに脱会しても、新たな居場所を失うことへの恐怖から心の傷を隠し続ける元信者たち。強制棄教は、拉致監禁から解放された後も被害者に背負いきれない重荷を負わせている。
PARTⅦ・完
(「宗教の自由」取材班=編集委員・堀本和博、同・片上晴彦、同・森田清策、社会部・岩城喜之)