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“拉致監禁”の連鎖(185)PTSD発症(13) 脱会者も発症する
脱会者も発症する
アトピーに苦しんだ1998年8月(写真上)と、ほぼ治癒した現在の宿谷さん(同下)
「心的外傷後ストレス障害」(PTSD)は、大規模な災害や犯罪被害など、強い恐怖感を伴うショック体験を突然することによって起きるストレス反応だ。拉致監禁による強制棄教がPTSDの原因となるショック体験であることは、これまで紹介してきた統一教会信者の今利理絵さん夫妻、そして塩谷知子さん夫妻の例をみれば明らかである。
この連載8回目でも取り上げた医学雑誌『臨床精神医学』第29巻第10号掲載の「宗教からの強制脱会プログラム(ディプログラミング)によりPTSDを呈した1症例」で報告者の池本桂子、中村雅一両氏は次のように述べている。
「拉致、誘拐、監禁を伴う強制脱会プログラムがPTSDの原因になり得ることは明らかであり、さらに宗教的信条に関することとはいえ、自己決定権を剥奪されたことがトラウマとなる可能性も見逃せない」。さらに「米国や英国では、誘拐や監禁を伴うディプログラミングが、信教の自由を脅かし基本的な人権を侵害する違法行為とされる」と紹介している。犯罪と断じてもいい。
だが、わが国には、拉致監禁の後遺症としてのPTSD発症を否定する人たちがいる。強制棄教に関わる脱会屋やキリスト教牧師である。その1人は日本基督教団・戸塚教会(横浜市)の黒鳥栄牧師だ。
「統一協会を脱会して」と副題が付けられた本『自立への苦闘』(全国統一協会被害者家族の会編)の中で、黒鳥牧師は「救出カウンセリング」の後、引きこもりや抑うつなどの症状を訴える脱会者がいることを認めながらも、それは「マインド・コントロールが残した『傷あと』」だとして、拉致監禁を原因としてのPTSD症状を否定している。
「私も最初のころは、カルトから脱会した者の後遺症だと思い込まされていた」と語るの宿谷麻子さん(48)。家族らによって約4カ月半にわたり拉致監禁されたあと、1996(平成8)年に統一教会を脱会した元信者だ。その際、「救出カウンセリング」したのが黒鳥牧師らだった。
宿谷さんは脱会後、いわゆる「リハビリ」のため、しばらく戸塚教会に通った。しかし、アトピー性皮膚炎、精神不安、睡眠障害、アルコール依存などに悩まされ、2000年に病院でPTSDと診断された。脱会後にPTSDを発症したケースとなる宿谷さんは、自らホームページを立ち上げて、拉致監禁によるPTSDの苦痛を訴え続けてきた。
PTSDは、はっきりとしたショック体験を前提にして診断される。その発症を認めることは「救出カウンセリング」が強いトラウマを残す強制棄教であることを認めることになる。黒鳥牧師が「マインド・コントロールの傷あと」という概念の曖昧な言葉を使うのはこのためである。
また、宿谷さんは「拉致監禁の現場に、牧師が訪ねていくことを『家族カウンセリング』と呼ぶのですが、監禁された人をおとしめる、虐げる、否定する言葉だけで、私は発狂しそうになりました。とてもカウンセリングとは言えません」と語り、「救出カウンセリング」の実態を証言する。
両親と和解して、現在は同居している宿谷さんのアトピーはほぼ治癒した。しかし、拉致監禁から16年を経過した現在も炊事、洗たく、掃除はできず、毎日11種類の薬の服用を余儀なくされている。
(「宗教の自由」取材班)
―続く―