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“拉致監禁”の連鎖(178)PTSD発症(6) 精神障害2級の夫
精神障害2級の夫
今利智也さんが服用している薬
「統合失調症」と並ぶ二大精神疾患の一つ「双極性障害」と診断された今利智也さんは2007年(平成19年)10月、「精神障害2級」と認定された。障害の度合いが1級から3級まである中で、2級は「日常生活が著しい制限を受けるか、又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のもの」(厚生労働省HPより)。
最初に受診した医師からは入院治療を勧められたが、通院で受け入れてくれる病院を探した。現在通院する川崎市内の精神科は転院してから4カ所目のクリニック。妻の理絵さんの支援がなくては日常生活ができないほど障害が重いので、障害者年金と生活保護費で生活している。
監禁こそされなかったが、智也さん自身も事件の被害者だ。理絵さんが拉致された際には、妻の親族らに地面に組み伏せられて左手と両膝にけがを負った。
また、智也さんの場合、拉致された被害者の夫で当事者であるとともに、その現場に居合わせた目撃者でもある。交通事故や殺人などの犯罪の目撃者も発症するし、大震災の場合は救援活動に携わった自衛官、警察官、医師らにも見られるのがPTSDだ。
被害者、目撃者であるとともに、智也さんは監禁から逃げ出した後、理絵さんを支え続けた支援者でもあり、心に深い傷を負いやすい立場である。そして現在、働くことができないほどの精神疾患に苦しんでいる。これも明らかな拉致監禁の二次被害である。
理絵さんの2回目の拉致監禁からすでに15年の歳月が経過したが、今も続く智也さんの精神的な苦痛を理解するには、まず監禁によって妻が5カ月もの間行方不明になっていた時にどんな精神状況にあったのかを知る必要がある。その時の心境について、裁判所に提出した陳述書で智也さんは次のように記している。
「統一教会の信仰を捨てさせるために行っているこの拉致監禁は、一体いつ出てこられるのか、皆目見当がつかない性質のものです。つまり、本人の信仰が完璧になくなって統一教会を脱会するまで、その説得は続いていくので、待ってる身としては、気が気でない」
さらに、智也さんは取材班に対して、偽装脱会して逃げてきた理絵さんとの再会時の様子について「(精神的な)仮死状態でした。それを復活させるのに、かなり時間がかかりました」と語った。
監禁されること自体がトラウマとなる過酷な体験だ。その上、脱出するための偽装脱会は“精神的な自殺”と表現できるほど人格を深く傷つける。
偽装脱会することで、監禁現場から逃げることができた被害者たちが、共通して語ることがある。それは「脱会する」と嘘をついただけでは、偽装脱会は成功しないということ。つまり、「強制棄教のプロ」と言える宮村峻氏ら脱会屋や牧師に「脱会」を信じさせるには、言葉だけでは見破られる。
そこで、自分の信仰心を麻痺させていったんは信仰を捨てる必要があるというのだ。理絵さんはそれを「信仰の身投げ」と表現した。そして、一時的とはいえ信仰を捨てたことに対する罪意識も、心の傷として残る。
拉致監禁、偽装脱会、脱出後の周囲の無理解、そして記憶から消し去りたい過酷体験を思い出しながらの裁判などで3重、4重に傷ついていた理絵さん。夫の智也さんは自らトラウマを抱えながら、妻の「復活」と回復を願って支え続けた。双極性障害の発症は、その長年のストレスが限界を超えたことを示していた。
(「宗教の自由」取材班)