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“拉致監禁”の連鎖(177) PTSD発症(5) 夫は双極性障害に
夫は双極性障害に
7年前から精神疾患に苦しむ今利智也さん
「(精神状態が)一番ひどいのは私なんですよ。PTSD(心的外傷後ストレス障害)という枠には入っていませんけど」
こう語るのは、拉致監禁被害が原因でPTSDを発症した今利理絵さんの夫、智也さん(42)だ。
智也さんが精神疾患を患っていることが分かったのは2005(平成17)年7月。最高裁で、理絵さんの両親、親族らとの和解が成立する8カ月前のことだった。
当時、中規模の病院で医療事務の仕事をしていた智也さんにはつらい日々が続いていた。理絵さんを拉致監禁した両親やキリスト教牧師らを相手に起こした民事訴訟は地裁、高裁と敗訴。04年10月に上告したが、「(最高裁は)うんともすんとも言ってこなかったので、裁判にも疲れた」。
妻の1度目の拉致監禁被害から続いた不安と葛藤の日々は10年になろうとしていた。そのストレスの蓄積は限界に達していた。そこに、仕事上のトラブルが重なった。
「生きるのに疲れたんですね。『俺はもうダメだ』と家内に相談し、家内のPTSDを診断した精神科医を受診しました。駆け込み寺みたいに」と、当時を振り返る。
医師の診断は「うつ病」だった。抗うつ剤を処方してもらい、勤めていた病院は休職した。しかし、今度は異常な行動が目立つようになった。
自動車の大型免許と普通自動二輪免許を取ったばかりか、借金して400ccのバイクを購入した。休職していた仕事は1年して解雇となったが「借金なんて、いつでも返せる」と気が大きくなっていた。
理絵さんが「おかしい」と気付き、医師に智也さんの状況を説明した。初め「うつ病」と診断された病名は約3年半後に「双極性障害」に変わった。そして、医師に言われた。「この病気は小さな病院では診きれないのです。入院施設のある大きな病院に行ってください」。智也さんは放り出された気分になった。
「双極性障害」とは、通常見られる気分の浮き沈みを超えて「自分ではコントロールできないほどの激しい躁状態や、苦しくて生きているのがつらいほどのうつ状態を繰り返す病気」(「日本うつ病学会」のホームページ)。「躁うつ病」と呼ばれることもあるが、多くの患者がうつ状態で受診するので、専門家でもうつ病と診断しやすいといわれている。
浪費は、躁状態になった時によく表れる行動だ。攻撃的になって人間関係を壊す危険性も指摘される。双極性障害と分からずに処方された抗うつ剤で、躁状態になること(躁転)もあり、専門家の間で注意が呼び掛けられている。
「もともとは戦うとか争うとか、苦手なタイプで、けんかしたこともなかった」智也さんだが、抗うつ剤を使用したあと、攻撃的になってインターネット上のソーシャル・ネットワーク・サービス(SNS)を炎上させたことがあったという。
医師からは「あまり社会と関わらない方がいい」とアドバイスされている。躁状態が極限に達すると、破壊的行動に発展し、結局はその責任を負うことになるからだ。
(「宗教の自由」取材班)