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“拉致監禁”の連鎖(176)PTSD発症(4)「重度うつ」の診断も
「重度うつ」の診断も
すでにPTSDと診断されていた今利理絵さんは自身が2010(平成22)年10月に、新たに「重度のうつ状態」と診断されるまでのことについて、次のように振り返る。
「重度のうつ」と診断された今利理絵さんは「自立支援医療受給者」に認定され、医療費の公的支援を受けている(一部修正)
理絵さんは長い間、精神科に通わなかったし、薬にも頼らなかった。「本当はすぐにでも助けてほしかったが、カウンセラー、臨床心理士に話しても最後の最後のところで話せないので、うまくいきませんでした」
拉致監禁被害者が負う心の傷の原因は、単に長い間狭い部屋に閉じ込められたというだけではない。それだけでもPTSDを発症させ得るショック体験だが、被害者の精神障害をより重症化させるのは、強制棄教が自己のアイデンティティーの根本に関わる信仰への破壊行為だからだろう。
慢性的なPTSD症状には、フラッシュバックに代表される再体験があるが、その苦痛を避けようとする「回避」も起こる。「誰も信頼できず、孤立無援を味わうというのも回避の症状の一つ」(『トラウマの心理学』NHK出版)。理絵さんがすべて話せなかったのも、回避の一つだったのかもしれない。それでも心のバランスを保てたのは「(家庭が)監禁のことを忘れるくらい大変」だったからで、今は「それが逆に良かった」と思えるようになった。
警察庁の調査では、東日本大震災の被災地の警察官は今も、強い心のストレスを抱えていることが分かった。被災地3県の警察官のうち、約4割は家族や知人が被災している。自宅が流された警察官もいる。自ら被災者でありながらも、遺体捜索など辛い活動に当たるのは二重の苦しみだが、責任ある職業柄、弱音は吐きにくい。当然、強いストレスを抱えることになる。
妻であり、母親でもある理絵さんも同じような状況にあったと言える。自ら被害者でありながら「拉致監禁を終わらせたい」という強い責任意識から刑事告訴と民事提訴に踏み切った。
牧師や家族を相手に、強制棄教を二度としないこと、そしてPTSDなどの後遺症に対する損害賠償を求めて民事提訴したのは1999年1月のこと。2006年3月、最高裁で両親らと和解が成立するまで、実に7年を超える年月を費やした。
不起訴となった刑事告訴、民事訴訟における地裁、高裁での敗訴や最高裁での牧師の和解拒否、そして「上告棄却」。PTSDに苦しむ理絵さんがこの間に受けたストレスは、それだけでも精神障害の原因になるほどのものだった。
しかし、もう一つ、理絵さんに緊張を強いた要因があった。同じ信仰を持つ理絵さんを支え続けてきた夫、智也さんも精神疾患を発症したことだった。
(「宗教の自由」取材班)