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“拉致監禁”の連鎖(174)PTSD発症(2)
悪夢にうなされた2年間
1回目の拉致監禁で自力脱出してから約1年後の1996(平成8)年11月頃、今利理絵さんは顎に痛みが走り、口が開かなくなった。監禁から脱出した後「2年間、毎夜悪夢を見た」と話す今利理絵さん
年が明けて、2度目の拉致監禁被害に遭ったのは、治療経過を診てもらうため、再び同病院を訪れる直前だった。5カ月余りに及んだ2度目の監禁から解放された後も、悪夢が続き、顎関節症が再発した。
藤沢市内にある夫の智也さん(42)の実家で暮らしていたため、今度は同市内の歯科医院で治療を受けた。完治するまで長くはかからなかったが、悪夢にうなされ眠れない夜が2年間も続いた。多い時には一晩に3度も見ることもあった。
当時見た悪夢について、理絵さんは次のように語る。
「ふと気が付くと、近くに家族がいるんです。曲がり角から、父親が猛ダッシュで走ってきて、ものすごい目つきで、私を捕まえに来る。私はワンボックスカーに乗せられ、降ろしてほしいと訴えても、そのまま連れ去られる。そのほかは、マンションかホテルのような一室で暮らしていて、ふと窓の外を見ると、父親が私を見張っている」 「やめて!」「どうして!」「車から降ろして!」とうなされ、叫び声を上げては目を覚ます夜が何日も続き、心身とも疲弊。
解放後1カ月間は、横になったまま過ごした。
眠れば夢の中で、また家族に追われる。「特に、精神的に苦しかったですね」と、理絵さんは当時を振り返る。
PTSDでは、原因となった衝撃的体験が悪夢として表れ、その結果、睡眠障害を起こすことが多い。回数の差こそあれ、悪夢は多くの人が経験するが、「不安障害」という疾病グループに入るこの病気は、根底に強い不安感、恐怖感があるため、日常生活に支障が出てくるという特徴がある。
病気として認められてから歴史が浅いこともあって、PTSD発症のメカニズムについてはまだ不明なことが多い。同じような衝撃的体験をしても、すべての人が発症するわけではない。
国立病院機構災害医療センターの調査によると、東日本大震災で派遣された医師や看護婦の中では、被災地で経験した精神的苦痛が大きいほどPTSDの症状が出ていた。また、犯罪、事故、災害などによる強い心理的ショック(トラウマ)体験が過去にあると、新たなトラウマに対していっそう弱くなり、PTSDになりやすいことも分かっている。 「たとえば、レイプ被害者のなかでも、過去に一度レイプを受けたことがある人は、PTSD発症率が3倍になるという報告もあります」(『よくわかるパニック障害・PTSD』主婦の友社) 理絵さんのように、拉致監禁による強制改宗という強い精神的苦痛を2度も経験すれば、PTSDを発症するのは普通と考えるべきだろう。
(「宗教の自由」取材班)