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世界日報特集:“拉致監禁”の連鎖パートⅦが始まる
世界日報による連載特集・〝拉致監禁″の連鎖が再スタートしました。
今回は、拉致監禁・強制改宗被害を原因とするptsdがテーマにされています。
以下、記事を転載します。
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PTSD発症(1)
空港で恐怖のフラッシュバック
2008年(平成20年)暮れのことだった。本連載パートⅣ「最高裁和解の記録」に登場した拉致監禁の被害者、今利理絵さん(42)は、所用で福岡からの帰途、羽田空港に着いた。その時、突然体験したフラッシュバックの衝撃は今も鮮明に覚えている。5カ月間に及んだ2度目の監禁から逃れて、すでに11年の月日がたっていた。
空港ロビーでの出来事だった。たまたま目に入ったテレビが、北朝鮮による日本人拉致被害問題についての啓発映像を映し出していた。閉ざされた空間で少女が「日本に帰して!」と叫ぶ。
そのシーンを見た瞬間、理絵さんの脳裏に、かつて監禁されていたマンションの部屋の状況がよみがえった。テレビ画面の中の、捕らわれて脱出できない少女の状況があまりにリアルだったため、まるで自分が監禁されているような感覚に襲われたのだった。
空港ロビーは大勢の乗降客で混雑していた。知人と一緒だったが、理絵さんの意識からは周囲の人々の姿がすべて消えていた。「もしその時、私を見ていた人がいたら、一瞬で恐怖と緊張で引きつった顔に変わったのが分かったと思います」
それは、ほんの数秒の出来事だった。しかし、思い出したくもない監禁の再体験感覚のあまりの生々しさに、全身に走った恐怖と緊張を解きほぐして正常な精神状態に戻るには、時間がかかった。
理絵さんが東京都内の精神科医院で「強制的な拉致」によるPTSDと診断されたのは1997年9月。2度目の監禁解放から4カ月後のことだった。PTSDとは、死の恐怖を感じるような衝撃的な出来事を突然体験したことによって起きるストレス反応だ。
その診断基準は(1)悲惨な出来事を突然思い出したり、夢に見たりする(2)関連する出来事を思い出せない(3)睡眠障害や集中力の低下――の3種類の症状が1カ月以上続き、仕事や勉強など日常生活に支障が出ていること。
発症すると、過去の衝撃的な出来事を連想させるような場面などがきっかけとなって、意図せずに当時のつらい状況を思い出したり、あたかもその出来事を現実に再体験しているような錯覚に襲われることがある。フラッシュバックと呼ばれるこの心理現象は、PTSDの症状の一つでもある。
羽田空港でフラッシュバックの恐怖を体験した時、理絵さんはすでに拉致監禁の加害者である家族や親族と、最高裁で和解が成立して2年半以上も経過していた。
和解によって、3度目の拉致監禁を警戒する必要はなくなっていたが、それでもちょっとしたきっかけで監禁の恐怖がよみがえる。
強制棄教を目的に行われる監禁は、信者を力ずくでワゴン車に押し込めて拉致することで始まるケースが多い。このため、それに似た車を見ると、フラッシュバックに襲われるなど、PTSDやそれに近い心的障害に苦しむ被害者は少なくない。
解放後も長く続く精神的な被害とその苦痛は、強制棄教目的の拉致監禁の悪質さを物語っている。