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“拉致監禁”の連鎖 パートⅣ、Ⅴを読んで 宗教ジャーナリスト 室生 忠さんに聞く(下)
宗教人権弾圧は作為段階に
小紙の長期連載「拉致監禁の連鎖」はパートⅠ「後藤徹さんの証言」、Ⅱ「医師・小出浩久さんの手記」、Ⅲ「鳥取教会襲撃事件」、Ⅳ「最高裁和解の記録」に続いて、パートⅤ「世界から指弾-日本の人権」では、強制改宗、拉致監禁問題について国連機関や米国、欧州、韓国などが基本的人権を著しく侵害するものとし批判を強めたこの1年の動向を追った。この問題について10年以上前から、いち早く執筆を通して批判を続けてきた宗教ジャーナリスト・室生忠氏に、パートⅤについての批評などを聞いた。(聞き手=堀本和博、片上晴彦)
世界の方が本質を理解/米国下院の公聴会実現を
――強制改宗、拉致監禁問題が海外にまで波紋を広げている。この1年間の海外の動きをどう見るか。
拉致監禁問題に対する全体的な理解、つまり、あってはならない現象が現実に起きており、その前提となる、起きていることは許されないことだという認識が、世界という規模でなされるようになった。日本より先に世界の側が、この問題の本質を理解するようになったことの意味は大きい。
もちろんこの1年で、この問題について国内における評価も、じわりじわりと変わってきてはいる。日本各地で行われた抗議デモ、ラリー、様々なパネルディスカッションなどの影響は、国内状況を少しずつ変えながら、世界全体に対する啓蒙とフィードバックしながら成果を出している。
――米国務省発行の「宗教の自由年次報告書」でこの2年間、拉致監禁問題が社会問題としてだけでなく政治問題としての項目でも取り上げられている。この変化をどう見るか。
宗教弾圧には二つの形態がある。一つは軍事独裁国家が、宗教者を収容所に送ってしまうような作為、具体的な行為でやる弾圧もあれば、もう一方で何もしない、やるべきことをやらないという弾圧もある。日本で行われている拉致監禁の問題は、検察、警察、裁判所など行政なかんずくそれを統轄する政府が、やるべきことをやらない不作為の弾圧だ。世界の中の冠たる民主主義国家と言われる日本で、こういう“不作為の弾圧”があり、それらは明確に政府、国家権力による弾圧、政治問題だということを世界は知らなさ過ぎる。
そういう中、「宗教の自由年次報告書」で従来、社会における問題、社会状況として記述されてきた拉致監禁問題が、2009年から政治問題としても捉えられるようになった。
私はそれを見て「人権意識に非常に長けた先進国はこういう見方をするんだな、さすがだ」と思った。この報告書を作成するに当たって、米国務省が調査するその過程で「政治責任として取り上げるべきだ」という価値判断がなされたのだろう。日本が国連外交を意識するなら、なぜこういう発想を理解できないのか。
――米国務省が発表する「国別人権報告書」にも強制改宗・拉致監禁問題が毎年のように取り上げられている。しかしこの報告に対しても日本政府はそれに反応し、アクションを起こした形跡が見られない。
ある意味、日本の政府、外務省はこの問題を甘く見ている部分がある。国連人権外交あるいは国連常任理事国入りの問題の障害になることはないと高をくくっているのではないか。
これは(今利理絵さん事件に対する最高裁和解勧告など)最高裁が微妙にある種の嗅覚を働かせていることに比較すれば、日本の外務省の嗅覚はかなり鈍っているということだ。
去年1年間の海外での認識の広がりを見ると、日本政府に対し、今後きついしっぺ返しがくると思う。
――拉致監禁問題の放置がマイナーな宗教団体への弾圧となっていることが、海外でも認知される中で、今後の運動の方向性はどうあるべきか。
テーマ自体の幅を広げる必要がある。個々の拉致監禁事件を深く追及していくのは当然のことだが、拉致監禁というのはつまりマイノリティー宗教団体の弾圧の問題だ。テーマを宗教弾圧にまで広げ、その内容を具体的に提示していくことだ。
例えば、CARP(全国大学連合原理研究会、学生サークル組織で統一教会の友好団体)の迫害問題(注)は、拉致監禁も含まれるが、基本的には学問の自由に対する弾圧であり、宗教弾圧だ。
CARPの問題はなかんずく国立大学が舞台の中心であり、文部科学省管轄の独立行政法人が、大きな絵を描きながら(弾圧を)進めている。文部科学省が絡んだ行政の問題だ。つまり、国によるマイノリティー宗教団体に対する弾圧は、やるべきことをやらないという不作為レベルを超えて、作為の段階に入ってきている。
欧米のネットで啓蒙必要/韓国では国内問題の意識
拉致監禁問題を中心として学問の自由に対する弾圧、人権抑圧にまで幅を広げ、マイノリティー宗教弾圧問題ということをより積極的にアピールしていくべきだ。
――具体的な成果を上げるには、どのようなことを考えるべきか。
米国の下院で日本のマイノリティー宗教弾圧の問題が取り扱われるようになること。もう一つは欧州の国連人権理事会で、この問題に対する正式な採択なり表明などがなされることだ。
米国の下院における公聴会、やるとすればトム・ラントス人権委員会になるが、これはぜひとも実現させないといけない。
現在、共同議長のジェームズ・マクガバン議員(民主党、マサチューセッツ)とフランク・ウルフ議員(共和党、バージニア)やその他構成委員たちの地元選挙民たちに、日本の拉致監禁問題を取り上げることの有効性、重要性をアピールできるかどうか。
そのために知恵を絞っていく必要があるが、ネット利用、イベント、ラリーのやり方など、草の根運動的なキメの細かいあらゆる努力が求められている。トム・ラントス委員会を構成している有力議員たちの地元は特に保守層が強く、宗教問題に対する認識度は高い。
日本における信教の自由の重要性イコール米国における信仰の自由の重要性と考える人も多いだろう。
――欧州では拉致監禁問題が国連人権理事会で取り上げられる一方、欧州の人権専門家らが昨秋来日し、この問題について討議し関心を高めた。さらに、欧州の一般国民にこの事実を広く知らせるにはどのような展望があるのか。
欧州と米国では状況が違っていて、米国と日本が距離的にも政治的にも非常に近いのに対し、欧州の場合は鈍いところがあり、日本の宗教に対する興味、情報が薄い。従ってジュネーブ国連人権理事会での今後の成果はどうしても必要な部分で、その動きを欧州の人々、指導者に認識させるような草の根運動を考えなくてはいけない。米国と同じようにブログやコンピューターの利用の仕方をもう一工夫する必要がある。
――韓国の状況をどう見るか。
韓国では統一教会会員に日本人の花嫁が多く、拉致監禁の被害者も少なくない。そのため韓国自身がこの問題に対し、無縁ではない、国内の問題だという認識がある。米国、欧州、韓国がこの問題について一様に厳しく見ていることに対して、日本政府はあまりにも鈍感過ぎる。
(注)室生忠氏は、月刊「財界にっぽん」の連載「日本の人権シリーズ」で、「『カルト対策』と称する大学当局の“新宗教狩り”-横行するアカデミック・ハラスメントの迫害」(3月号)をテーマに、大学当局による不当な「セクト狩り」であるCARP弾圧問題を取り上げたのを皮切りに、教授のCARPの学生に対するアカハラ問題などについて同誌4、5、6月号でも鋭く告発している。
過去の記事は世界日報社ホームページでも閲覧できます。
http://www.worldtimes.co.jp/special2/ratikankin/main.html